『マネーの拳』に見る一点集中の経営戦略

コラム

『マネーの拳』という漫画をご存知だろうか。
あの『ドラゴン桜』の作者三田紀房が、受験ではなく会社経営をテーマにして描いた漫画だ。

もう10年以上前に連載された漫画だが、最近はじめて読んだ。
これがとてつもなくおもしろい。

主人公の花岡 健はボクシングの元世界チャンピオン。現役引退後に居酒屋経営を始めるが赤字続き。それがふとしたきっかけで、裁縫工場を引き取ることになりTシャツメーカーの経営へ転身する。

そこから紆余曲折を経てTシャツ専門店を開業。都内に出店攻勢をかけて、やがて株式上場を行い、世界規模のアパレルブランドになるというストーリーだ。

大企業からの激しいプレッシャー、社内メンバーの様々な人間模様など、非常に読み応えがあるのだが、中でも印象に残るのが、経営のド素人がいかに会社を成長させていくかという経営戦略だ。

『1年中Tシャツだけ売るなんて見たこともない。だからいい。どこにもでもあるような店ならやる意味はない。』

まず、花岡拳の店T-BOXは、Tシャツしか売っていない。

1店舗目の出店当初は「Tシャツしか売ってないのか」「他のアイテムとあわせて見れない」とユーザーから不評。
社内でも様々なアイテムを出すべきという意見出ていた。

これを花岡拳は「必ず成功する」としりぞける。
その上、この時点で2店舗目以降の計画的な出店を画策し、スタッフの反発を買う。
私のような一般人にはとても考えられない戦略だ。

しかし、花岡は「ひとは1番のものしか覚えていない」という言葉の通り、Tシャツで一番になることを目指したのだ。
結果的に、季節が夏に近づいたことと品質のよさから少しずつ客足が増え、ターゲットを若い女性に絞った新素材のアイテムがブレイク。銀行からの融資を取り付け、一気に出店ラッシュをかけていく。

「TシャツならT-BOX」というブランドを作ることで、アパレル業界に確固たる地位を築くことに成功する。

普通の経営者は、事業を一つに絞ることは大きなリスクに感じる。
だから売上が少しでも上がるのであればと、あれもこれもと手を広げがちだ。
これが大手大企業なら、十分な資本で多角経営を行えるのだが、中小企業は違う。

ヒト・モノ・カネといった、ただでさえ少ないリソースが分散され、どの事業も中途半端になる。会社としても何をしている会社なのかわからなくなってくるので、ブランド化できない。

重要なことは何かの分野で1位になることだ。

例えば、日本で一番高い山は「富士山」、大きい湖は「琵琶湖」と答えられても、二番目を答えられる人は少ない。
美味しいカレーを食べたいときに、カレー専門店とファミレスなら、カレー専門店に行く人が圧倒的に多い。

「より少なく、しかしより良く」

中小企業の経営戦略で最も重要なことは、「何をするか」と同時に、「何をしないか」を決めることだろう。
「なんでもやります」は「なんにもできない」のと同じだ。

「作って売る、これが商売の基本で一番強い。」

蛇足になるが、もうひとつT-BOXが成功した背景に、自社でTシャツを製造していたことがある。

自社で裁縫し、自店舗で販売するので、商流の川上から川下まですべて自分たちで抑えることができる。ただの裁縫工場や、仕入れて売る店舗販売と違い、取引先に影響されず、自分たちの自由に商売ができる。

「作って売る、これが商売の基本で一番強い。」という言葉は、私たちのようなカタチのない「Web」という媒体を扱う業種にぐさりと刺さった。

『マネーの拳』には、その他にも会社経営や事業成長に関する様々な示唆にとんでいる。
会社経営やビジネスモデルに興味のある方におすすめだ。

三田紀房『マネーの拳』小学館 2005

]]>

コラム
follow
プロフィール
五島 優

ディレクションや仕様設計をメインで担当しています。最近は小学校に通っているうちの子どもをどうやって笑わせられるか研究中。どうして子どもはこんなにう◯こネタが大好きなのか…

follow
超インハウスWebサイト運用 to-ch(トーチ)