お客様の中には、フォントにとてもこだわりがある方がごく稀にいる。
こういうお客様は、誤解を恐れずに言えば厄介だ。
なぜなら、フォントの選択は理論ではなく、決定的にセンスが重要になるから。
理論で説明できない、デザインセンスとはなにか。
今日はフォントを通して考えてみたい。
※フォントとは、文字の字体のこと。
Webデザイナーにとってのフォント
フォントがデザインに与える印象は、とても大きい。
しかし、私のような「Webデザイナー」で、フォントにこだわる人は少ない。
明朝かゴシックか、はたまた丸ゴシックなのかくらいだ。
なぜなら、長いことWebデザインのフォントは、表現するデザイナーではなく、
閲覧するユーザーが所持しているフォントしか設定できなかったからだ。
古くはMS-Pゴシック・メイリオなど、共通でPCにインストールされているフォントしか設定できないということになる。
おまけにブラウザによっては、文字の間隔や段組みまでずれたりする。
PCとスマホでは、表示できるフォントが違ったりする。
こだわっても仕方がない、というのがWebデザイナーの言い分だ。
その影響か、フォントに制限がないバナーのような画像デザインの場合でも、
こだわってフォントを選んでいることは少ないように思う。
紙デザイナーにとってのフォント
一方で紙を主戦場にしてきたデザイナーのフォントへのこだわりは異様だ。
限られた紙面で、文字をどう構成・配置するか。
「ユーザーが持つフォント」といった制限がないため、
何千種類とあるフォントを自由に選択できる。
だからこそフォントへの知識と理解、何よりセンスが必須になる。
彼らは字面を見ただけで、何という名前のフォントなのか当てることができる。
水野学の『センスは知識からはじまる』ではないが、そもそもフォントを知らないと、センスは発揮しようがないということを如実に現している。
Webフォントにおけるロジックとセンス
近年、Webデザインでもようやくフォントが自由に使えるようになってきた。
「Webフォント」と呼ばれる存在の登場で、ユーザーの環境に左右されずに
(ある程度制限はあるものの)フォントを使えるようになってきたからだ。
ここで、Webデザインにおけるフォントの選択は重要になる。
決定的に、デザイナーとしてのセンスが問われるからだ。
例えば、デザインによって使用するフォントは大きく4つの系統にわけられる。
・かっちりした読みやすい印象ならゴシック系
・上品で余白の大きいデザインなら明朝系
・柔らかく読みやすい印象なら丸ゴシック系
・優しさや親しみやすさを演出するなら手書き系
ここまではロジックでフォントを選択できる。
しかしそこから、具体的になんのフォントを選択するかは、理論ではない。
わずかな角度の違い、丸みの印象、醸し出す雰囲気。
「これ」というフォントを選択できるのは、センス=美意識だ。
そこに理論の説明はできない。
ユーザーが違和感なく(場合によってはあえて違和感を狙って)、
デザイン全体に与える印象をコントロールすること。
優れたWebデザインは、フォントの選択が絶対的に美しい。
逆にチープなデザインは、フォントのセンスが悪い。
フォントにこだわりのあるお客様は、すなわち明確にセンスを持っている。
自社(自分)が、ユーザーに与える印象をコントロールしたいのだ。
ここに理論は通用しない。
お客様とデザイナーとで、「◯◯っぽいですよね」「いやこちらの方が◯◯な感じです」といった、何やらあやふやな言葉のやり取りになる。
でもそうすることで、徐々に「美意識」の輪郭が見えてくる。
結果として選ばれたフォントは、しっかりとユーザーに意思を持ったフォントになっているはずだ。
これからのWebデザインにおけるフォントとは
Webフォントの急速な普及で、時代は変わった。
Webデザインにおいても、フォントの選択にデザイナーのセンスと美意識が問われるようになったのだ。私たちWebデザインに関わる人間は、そのことを心に留めておく必要がある。
逆にクライアントとして、もしあなたのWebサイトの印象が「なにか違う」「もうちょっとよくならないか」と思うのならば、ぜひデザイナーに聞いてみてほしい。
「このフォントを選んだのはなんでですか?」と。