Web制作会社の人間として、「Webデザイナー」と「デザイナー」は、受ける印象が大きく違うな、と最近思う。
字面だけを見れば、「Web」があるかないかだけなのだが、少なくともWeb業界の人間からすれば、その職務範囲が大きく違う印象を受ける。
一般的にWebデザイナーは、Webサイトの見た目、画面をデザインする人だ。
彼らの領域は、2次元の平面の中で、いかに「表現」するかである。
しかし、日本の著名なデザイナーの仕事を見ると、彼らのデザインは「表現」にとどまらない。
例えば、私の敬愛するデザイナーに佐藤オオキ氏がいる。
そのユニークなデザインで、世界的な賞を多数受賞、本もよく出版しているのでご存知の方も多いだろう。
建築、インテリア、プロダクト、グラフィックなど幅広いデザインを手がける「nendo」の代表だ。
私はNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」で5年近く前に知ったのだが、その時に気づいたことがある。
彼はプロダクトという最終的なアウトプットに、手を出していない場合が多い。
具体的な仕事の中身はこうだ。
・クライアントと話し合いをして、必要な情報をヒアリングする
・アイディアをスケッチにまとめる
・アイディアを元に、スタッフとアウトプットのカタチを話し合う
・スタッフ(と場合により工場など)が作った試作品を確認し修正指示を出す
・完成した試作品を、クライアントにプレゼンする
彼の仕事に、製品などのアウトプットを直接「つくる」という制作は含まれていない。
最も重要なのは、「コア・アイディア」「コンセプト」を生みだす部分。
無から有を、0から1を作る。これがモノづくりにおけるもっとも核心的な部分であり、問題を解決するという「デザイン」の本質だ。
もともと「デザイン」という言葉を辞書で引くと、次のような意味になる。
1 建築・工業製品・服飾・商業美術などの分野で、実用面などを考慮して造形作品を意匠すること。
2 図案や模様を考案すること。また、そのもの。
3 目的をもって具体的に立案・設計すること。
出典 ブリタニカ国際大百科事典
お気づきいただけただろうか。
もともとデザインに「アウトプットをつくる」という意味はないのだ。
Webやグラフィックなどは、平面デザインのため、意匠すること自体がアウトプットに近い。そこから、いつしか制作自体もデザインに含まれるようになったのだろう。
ではWeb業界における「コア・アイディア」や「コンセプト」は誰がつくるのか。
Webディレクター、Webプロデューサーと言われる人たちであることが多い。
彼らは、クライアントと話をし、サイト全体のコンセプトや構成を考え、ワイヤーフレームと呼ばれる画面の設計図をつくる。まさに佐藤オオキ氏の仕事内容と同じだ。
だから変な話、Webをデザインをしているのは、Webディレクターではないかということになる。
Webディレクターがデザインをして、WebデザイナーやHTMLコーダーなどがカタチにする。
これがWeb制作の現場の実態だ。
(ちなみにディレクションの意味は、「指導。管理。監督。演出。指揮。」)
Web業界では「デザイン」という言葉が矮小化されているように思う。
私たちは今一度、「デザイン」という言葉の持つ意味の本質を考えるべきではないだろうか。
デザインとは技能ではなく、物事の本質をつかむ感性と洞察力である。
同じく日本の著名なデザイナー、原研哉氏の言葉である。
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