最近、電通の古川裕也氏が書いた『すべての仕事はクリエイティブ・ディレクションである。』にいたく感銘を受けた。
というのも、同じ「クリエイティブ・ディレクター」という肩書きながら、その”クリエイティブ”に対する認識がかなり違っていたからだ。
今日はその中でも特に心に刺さった言葉を2つ紹介したい。
1.『今までになかったアウトプットを生みだすことによってのみ、クリエイティブの仕事は意味を持つ』
Webサイトは、率直に言えばコピペの文化だ。優れたサイトはすぐに模倣される。技術は簡単にコピーされる。それがWebのトレンドを生みだす。技術の移り変わりは激しく、作る側もそれを分かっていて、むしろ「シェア」することを良しとする。
だから、「新しさ」は重要だ。だけれども、その最前線に立つ「今までにないアウトプット」という視点は、少なくても私の中にはなかった。
技術の確立されていない、あるいは見たことのないアイディアは、リスクも高い。ユーザーやクライアントに受け入れられるか未知数だからだ。確立されたテクニックや表現の方が、成果が見通せるしコストも下げられる。
堅実と言えば聞こえがいいが、これは完全に守りの姿勢だった。
古川氏は、カンヌライオンズ・国際クリエイティビティ・フェスティバル(旧カンヌ国際広告祭)を例に次のように述べる。
要は、新しさを競っているのである。どんなによくできていても、今までにあったようなアイディアはまったく評価されない。(中略)goodはもちろん大前提だが、newが決定的なのだ。正確に言うとnewがないgoodはあまり高く評価されない。ゴールドに届くものには、確実になんらかのnewnessが含まれている。
新しさは、必然的に大きな副産物をブランド、即ちクライアントにもたらす。「リスペクト」である。とても多くの人々からの。どんなに小さなことであっても、今まで存在しなかったなにものかを発明したのである。ブランドが受ける当然の報酬だと思う。
また「新しさ」を生みだすためには、クリエイティブ・パーソンは、絶対にそれまでの表現の歴史を認識しておくことが大切だと説く。
私が高校時代にアートに打ち込んでいたとき、当時の教師に「なぜ美術史を勉強する必要があるのか?」という問いをしたことがある。この答えが、古川氏の言葉と一致していておもしろい。
「美術史を勉強していないと、過去に誰かが作った作品と同じものを作ってしまうかもしれない。今までにない新しいオリジナルを作りたければ、美術史を勉強することだ」
2.『すべての傑作には共通する「理由」がある。びっくりさせる力と納得させる力である。』
びっくりさせる力とは何か。人の記憶に残すことである。「世の中の90%のキャンペーンはなかったことにされる」という言葉どおり、Webサイトもほとんど印象に残らない。まず覚えてもらうことは重要だ。
その中で古川氏は有力な手段に「新しさ」「異常値」が必要だと述べている。つまり、今までになかったもの、普通ではないものだ。それがなければ記憶に残らない。
Webサイトは、何も商品販売のキャンペーンをやっているだけではない。会社案内としてのサイトだったり、通販のECサイトだったりする。要は堅実さを求められることも少なくない。いや、BtoBをメインでやっている弊社のWeb制作に関して言えば、むしろ堅実さこそ重要だと考えることもできる。
しかし、本当にそうだろうか?
堅実さと驚きを両立することはできないだろうか?
何も奇をてらう必要はないだろう。
堅実でありながら、見る人を強く惹きつける魅力があれば、より効果的なクリエイティブができるはずだ。
もうひとつ、納得させる力とはなにか見てみよう。
驚きと同時に、「意味」を伝えて、ハタと膝を打たせなくてはならない。(中略)言いたいことから相当程度、意外な方が破壊力を持ちやすい。ただ、遠くまでジャンプしても、必ず最後「はたひざ」がなければならない。コンテキストに説得力がなければならない。
すごく図式的に言うと、「ああ。こういうことを伝えたいために、これほどの表現が必要だったのか」という風に、構造的に需要されるべきだ。これが、右脳+左脳、カラダ・ココロ+アタマ。両方を動かさなければならないと述べてきた意味である。「はたひざ」とは、目的芸術である限り必ず持たなくてはならない最終的説得力のことである。
なるほど印象に残すだけではなく、その意図や意味を理解してもらうことが重要なのだ。
私たちのWebサイトは、どちらかというとこちらに偏重してきたように思う。
「わかりやすいこと」「つかいやすいこと」これが重要だ。その認識は間違っていないのだろう。
その上で、やはり「びっくりさせる力」が欠けていたように思う。
むしろ「びっくりさせる力」があってこそ、「納得させる力」はより大きな意味を持つに違いない。
優れたアウトプットには、すべて、このふたつが含まれている。
このふたつが含まれていない傑作は、歴史上存在しない。
このふたつが含まれていれば、ほぼ100%の確率で傑作のはずだ。
Webディレクションについて考えること
ここで紹介した2つの視点は、ほんの一要素に過ぎない。本当はもっと伝えたいことがあるが、少なくてもこの2つの言葉は、私のクリエイティブな価値観を大きく揺るがした。
というのも「AI時代に必要なWebデザインの力とは」でも述べた通り、これからの未来に必要なのはクリエイティブな力にほかならないからだ。機械にできない優れたクリエイティブとは何か、考えるよいきっかけになったと思う。
Web制作会社も、これから大きな淘汰が進んでいくはずだ。
ただWebサイトが作れるという技術だけを持つ会社は、真っ先にお払い箱になるに違いない。
私たちは、今一度クリエイティブの力を見つめ直す必要がある。
そんなときに、ぜひ一度読んでおきたい良書だ。
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